【解説】『花束みたいな恋をした』をネタバレありで徹底考察

1/29に公開してから物凄い勢いで反響を呼び、未だヒット中の『花束みたいな恋をした』

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大好きな『カルテット』『anone』を手掛けた脚本家、坂元裕二長編映画、しかも自分が一番好きな俳優である菅田将暉が主演ということで公開前から期待度は高かった。

がしかし、劇場を出るときにはその上げすぎたハードルの上を軽々と上回るような満足感で胸はいっぱいで、その余韻はしばらく止むことは無かった。

 

先日、二回目を鑑賞し、初見では気づかなかった細かなところに触れてからさらにこの作品の奥深さを知ることができたので、ここに書き残して置こうと思う。ただ鑑賞後いろんな映画ブログを巡回し、まだこれは書かれていないかなと思ったものに絞る。

 

また、ネタバレを含むためまだ見ていない方はご注意ください。

 

 

  1. 麦が就職面接後に泣いている絹を迎えに行くシーン

  2. 絹と麦のファミレスでの座る位置関係

  3. 靴とイヤホンが意味するもの

  4. じゃんけんの伏線

 

 

1.麦が就職面接後に泣いている絹を迎えに行くシーン

これは麦と絹が付き合い始めて、絹が就職活動を開始してからすぐのシーンで、二人が電話しているカットから始まる。この電話の最後で麦は絹が電話先で泣いていることに気がつく。その後、麦は部屋着のまま家を飛び出し地下鉄に乗って絹を迎えに行き、絹を抱き寄せる。

初見の時は普通にいいシーンだなと思っただけだったが、二回目、この映画の結末を知ってからもう一度このシーンを見てみると、秀逸なメタファーになっていることに気が付いた。

それは、スーツに身を包んだサラリーマンでいっぱいの地下鉄構内を、部屋着の麦が逆走しているカットである。

このカットが二回目には、スーツで社会的名義のために社会の流れに沿って巡行する大人と、部屋着で個人的理由のために社会の流れに逆らって逆行している麦という対比構図に見えた。見えたというかそれにしか見えなかった。

おそらく意図して作られていると思うが、この時の社会に出たくない馴染みたくないという麦の気持ちを的確に比喩したこのメタファーはとても素晴らしいと思う。

 

 

2.絹と麦のファミレスでの座る位置関係

この映画はファミレスでのシーンが非常に重要な役割を果たしている。特に真ん中にテーブルを挟み、二人が向き合う様子を横から撮影したシーンがとても印象的である。

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ファミレスに最初に行った日、付き合うとき、付き合ってから、実はこの二人の座る位置は決まっていて画面の左側に麦、右側に絹という構図に必ずなっている。

 

しかし、二人が別れを胸に決めて入った最後のファミレスのシーン、いつも二人が座っていたあの席は埋まっていて、別の席に座る二人。この時初めて画面の左側に絹、右側に麦という構図になるのだ。このシーンの違和感の始まりはこの構図の差から生まれている。さらに麦が絹に対して、やっぱり別れるのはやめておれたち結婚しようよ、と絹を説得しようと試みるカットに移るが、ここでは効果的にカメラの位置を切り替えて二人の位置関係を逆転させ、画面の左側に麦、右側に絹という元の構図に戻している。この構図に戻すことによって二人がこれから結婚した時の様子を見るものに想像しやすくしているのだ。

ここまで書いたことはあくまで自分の想像だが、二人の位置関係でここまで読み解かせようとするこの作品の奥の深さが表れている。

 

 

3.ワイヤレスイヤホンが意味するもの

この映画を象徴するものとして描かれているものがある。それは靴とイヤホンである。靴の方は直接的な表現のため分かりやすいと思うが、出会った時はお揃いだった白のコンバースのアップ、玄関に置かれた2つの革靴のアップ、最後のファミレスでの若いカップルが履いているお揃いの白いコンバースのアップ、など今作品で靴は子供と大人の象徴として描かれている。

対してイヤホンは少し分かりにくいかもしれない。ファミレスで1つのイヤホンを2人で聴いていたことから分かるように最初イヤホンは2人を結びつける役割として登場する。イヤホンを好きな曲を通して2人は繋がっていると感じる。

最初の居酒屋でケーブルイヤホンをよく絡まると言っていたのをお互い覚えていたのか、クリスマスプレゼントで2人は互いにワイヤレスイヤホンを買う。ここからイヤホンは2人を遮断する役割へと変貌を遂げる。

それが顕著に表れているシーンが、会社から帰ってきた麦が、ゼルダの伝説を始めようとする絹に、『音出してやっていいよ』といって自分はワイヤレスイヤホンを付けて仕事を始めるあのシーンだ。あの瞬間、かつて2人を繋いでいたイヤホンは2人を遮断し、心の壁を作っていく。あのあとテレビを消しゼルダをやる気もなくなって部屋を出る絹にすら気づかない麦を見るのがなんだかとても辛かった。

その後もスーパーでも2人はワイヤレスイヤホンをしているため、お互いの存在に気づくのが遅く外しても特に会話もないシーンなど、2人の心が離れていく象徴としてワイヤレスイヤホンは描かれている。

 

 

4.じゃんけんの伏線

麦と絹はじゃんけんのルールに納得できないことで意気投合していた。それはパーがグーに勝つということが理解できないというものだった。しかし、別れてからバロン(猫)をどちらが引き取るか決めるじゃんけんの時に麦はパーを出して、グーを出した絹に勝利する。この時麦は「だって大人だもーん」といって絹をからかう。この一連の流れを作るために最初にじゃんけんのネタを持ち出したのか、そのために猫を飼うことにしたのかは分からないが、あまりにも伏線回収が綺麗で感動した。

 

 

以上自分がこの作品を見て感じたことをツラツラと連ねてきたがいかがだっただろうか。他にも映画解説が見たいといった声があれば、好きな映画の解説を書いていきたいと思っている。